株式会社シクロケム
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サイエンストーク科学の現場
マヌカハニーとシクロデキストリンの相乗効果(1)

「マヌカハニー」と「シクロデキストリン」について世界でもっとも先進の情報をもつ4人が一堂に会する

今回は従来の「サイエンストーク」とスタイルを変えて、ドイツ・ドレスデンにドレスデン工科大学のトーマス・ヘンレ教授を訪ね、4人でトークを展開しました。ゲストは、ヘンレ教授をはじめとして、同じくドイツからワッカーケミー社ミュンヘン本社のゲーハート・シュミット社長、ニュージーランドからマヌカへルス社のケリー・ポールCEOです。現在、「マヌカハニー」と「シクロデキストリン」の特性について、世界でもっとも先進の情報をもつ人たちで、その抗菌活性を中心に据えて、α-シクロデキストリンによるマヌカハニーの粉末化に関する今後の共同研究テーマまで、時間を忘れて話が弾みました。

2009年9月掲載(この記事の内容は取材当時の情報です。)

ゲーハート・シュミットさん

ワッカーケミー社ミュンヘン本社ファインケミカル部門社長・生物学博士

'54年ドイツ・ミュンヘン生まれ。ミュンヘン大学大学院卒業。ミュンヘン大学生物学博士号取得。専門は生物学。'84年ワッカーケミー社中央研究所に入社。'88年ワッカーケミー社中央研究所バイオテック部門長、'91年ワッカーケミー社ビジネスマネージャー、'97年米国ワッカーバイオケム社社長、'03年ワッカーケミー社ファインケミカル部門副社長を経て、'05年ワッカーケミー社ミュンヘン本社ファインケミカル部門社長に就任。趣味はゴルフ。

トーマス・ヘンレさん

ドレスデン工科大学食品化学研究所教授・工学博士

'61年ドイツ・ミュンヘン生まれ。'97年バイエンステファン工科大学食品工学部大学教員資格、工学博士号取得。'88年ドレスデン工科大学食品化学研究所教授、'03年ドレスデン工科大学化学及び食品化学部の学部長に就任。さらに'05年以降、食品化学ドイツ学会の会長、ジャーナル「European Food Research and Technology」の編集主幹を兼務。「“ドレスデン工科大学のFriendとPromotor”の教授賞」やドイツ食品学会の「Kurt-Taufel-Award」などを受賞。

ケリー・ポールさん

マヌカヘルスニュージーランド(株)CEO

'52年ニュージーランド・テアワムツ生まれ。ニュージーランド国立ワイカト大学卒業。ニュージーランドの酪農、食肉、そしてバイオテクノロジー業界の大手企業で上級管理職として活躍した後、'08年マヌカへルスニュージーランド(株)設立、CEOに就任。趣味はスカッシュ。

寺尾啓二

(株)シクロケム代表取締役 工学博士 

'86年京都大学院工学研究科博士課程修了。京都大学工学博士号取得。専門は勇気合成化学。ドイツワッカーケミー社ミュンヘン本社、ワッカーケミカルズイーストアジア(株)勤務を経て、'02年(株)シクロケム設立、代表取締役に就任。東京農工大学客員教授、日本シクロデキストリン学会理事、日本シクロデキストリン工業副会長などを兼任。趣味はテニス。

マヌカハニーとシクロデキストリンの研究・開発の広がりを目指して

寺尾:今日、私たち4人が一堂に会したここドレスデンは、観光案内のパンフレットによると、ドイツ東部ザクセン州の州都で、チェコ共和国との国境近く約30km、また陶磁器の町として有名なマイセンまでは25kmほどの距離とのこと。歴史的にはザクセン侯の宮廷都市として栄え、戦後は工業都市として発展し、近年では歴史的建築物の再建計画が進み、観光地としても賑わいをみせているそうですね。

ヘンレ:皆さん、遠いところ、我がドレスデン工科大学にようこそお出でくださいました(笑)。

寺尾:じつは、この「サイエンストーク」の3回目にワッカーケミー社ミュンヘン本社のゲーハート・シュミット社長、4回目にニュージーランド・マヌカへルス社のケリー・ポールCEOにすでに登場していただいており、その節はありがとうございました。ケリーとの対談のなかで、トーマス・ヘンレ教授のマヌカハニーに関する研究についても言及しており、全員に多かれ少なかれお世話になっている次第です(笑)。
詳細はバックナンバーを参照してもらうことにして、ここでは改めて、各人に、我々4人に共通するテーマの「マヌカハニー」にどのように関与しているかを簡単に紹介してもらいたいと思います。

ポール:マヌカへルス社は、マヌカハニーはもとより、プロポリス、ローヤルゼリーなど70種類以上の養蜂製品を製造し、ニュージーランドや日本、英国など30ヶ国以上で販売しています。

寺尾:日本での独占販売契約を結んでいただいているのが、私どもシクロケム社ということになります。

シュミット:現在のところまだ、ワッカーケミー社はマヌカハニーに直接、関与した仕事はしていません。しかし、将来的には関係をもつ可能性が大いに期待されます。
つまり、私の手掛けた研究成果のひとつなのですが、1988年に、α、β、γ、それぞれのシクロデキストリンを選択的に、かつ経済的に製造する方法を開発し、当社はその特許をもっています。マヌカハニーにα-シクロデキストリンを加えて複合粉末化することで、マヌカハニーの有効性をより一層、生かすことのできることがわかってきています。この件については、あとで詳しく話したいと思います。

寺尾: シクロケム社は、ワッカーケミー社ともこれらシクロデキストリンの日本での独占販売契約を結んでいます。シクロケム社を“仲介”として、マヌカハニーとシクロデキストリンがつながり、いろいろ興味深い研究・開発に広がるのではという前向きな構想のもと、この度、4人が顔を合わせることになったというわけです。

ヘンレ:私がマヌカへルス社と共同研究するようになったきっかけは、ケリーからの1本の電話でした。2006年夏のことです。当時、世界から化学者や生物学者などが集まっていた、イタリアの「インターナショナル・ワーク・ショップ」に私も在籍し、抗菌物質のMGO(食物メチルグリオキサール)に関する研究報告を発表しました。そうしたところ、ケリーにたいへん関心をもってもらい、電話でいろいろ話しているうちに、今後、お互いに協力していけるのではということになったのです。

ポール:マヌカヘルス社の設立が2006年8月ですから、このヘンレ教授の研究報告の時期と前後していたことになります。こうして、翌年の4月にMGOの商標登録を取り、5月にヘンレ教授との共同研究を本格的にスタートさせました。

ヘンレ:この共同研究のなかで、長年、特定できないままでいた、マヌカハニーの抗菌作用をもたらす生理活性物質の正体が、「MGO」であることを突き止めたのです。2008年1月に論文を発表し、大きな反響を呼びました。

シュミット:マヌカハニーの強力な抗菌作用の科学的根拠が明らかにされたのですから、業界はもとよりとして、反響が大きかったのは当然の成り行きでしょう。

ポール:「天然素材を使用し、その効果・効能に関して科学的裏付けのある製品をつくり、世界の人たちの健康や福祉に貢献したい」というのがマヌカヘルス社の理念の核ですから、ここでまたひとつ、それをカタチにすることができて感動しました。なお、当社が日本のパトーナーとしてシクロケム社にプロポーズしたのも(笑)、シクロケム社が科学的根拠に基づく製品づくりをモットーにする会社であることが、いちばんの理由でした。

ワッカーケミー社

「ハチミツの王様」「世界で最も高級なハチミツ」と称され、高い評価を得ているマヌカハニー

寺尾:本題に入る前に、マヌカハニーについて、基本的なことを整理しておきたいと思います。

ポール:「マヌカハニー」とひと言でいっても、実際は2つのタイプがあって、MGOを含むものと含まないものがあります。マヌカヘルス社が採集している土地のような、特定の土地から採れるマヌカハニーにだけ、MGOが含まれるのです。もちろん、MGOを含まないマヌカハニーは、上品な味わいのテーブルハニーとして人気があり、そのまま食されたり、料理に使われたりしています。

寺尾:私がニュージーランドのオークランドにあるマヌカヘルス社を訪問したとき、「養蜂場は普段、ほとんど人が立ち入らない人里離れた山岳地帯にある」と聞いて、マヌカヘルス社のマヌカハニーが農薬汚染の心配のない、まさに豊かな自然の恵みであると合点したものでした。

ポール:マヌカハニーはマヌカという、ニュージーランドだけに自生するフトモモ科の低木(学名はLeptospermum Scoparium)に咲く花から採れるハチミツです。成長すると4mぐらいになり、12月頃(南半球では夏季)、およそ4週間、白やピンクの8~12mm程度の可憐な花を咲かせます。
当社の養蜂場は、寺尾社長が話されたように、手つかずの自然が残る「マヌカの森」にありますが、花の季節には、遠くから眺めると、まるで雪山のようにみえます。開花の時期に巣箱を運び込み、他の花の蜜ができる限り混ざらないように配慮しています。

ヘンレ:マヌカハニーに含まれる抗菌物質のMGOは、このマヌカの花のなかに生合成されていることがわかっています。

寺尾:マヌカの開花期が12月の約1ヶ月間というのは、大きな意味があります。ニュージーランド食品安全局は毒性ハチミツに対して注意を促しているのですが、それは、2月頃からの毒性のある花蜜をミツバチが採集してしまうためです。おわかりのように、マヌカハニーの採蜜時期とは2ヶ月ほどズレることになりますし、また採蜜地域も異なります。したがって、マヌカハニーには有毒物質が含まれる心配がないのです。

ポール:マヌカヘルス社でも、ミツバチは、世界の養蜂家の80%が使用しているとされるイタリアンハニービーを採用しています。ニュージーランドでは、法律でミツバチに対する抗生物質使用が禁じられており、きちんと査察も行なわれています。
万が一、病気になった際は、焼却または埋め立て処分が行なわれます。ですから、「輸出証明書」の発行は、抗生物質無使用の証しともなります。ともあれ、製品の安全性については国家レベルで、徹底した管理が行なわれているといえます。

シュミット:ニュージーランドには、「マヌカハニー」と名前がよく似た、「カヌカハニー」というハチミツもあって、ちょっとまぎらわしいですね。

ポール:同じフトモモ科ですし、においもよく似ていますが、姿カタチも成分も、両者では大きく異なります。カヌカは成長すると20mほどになり、9月から翌年2月まで半年にわたって花を咲かせます。花は3~5mmの小さな白い花で、マヌカのようにひとつ一つが独立しておらず、密生して咲いています。そして、何といっても、カヌカハニーには抗菌物質のMGOが含まれていない、という大きな違いがあります。

寺尾:マヌカハニーは、昔からすぐれた薬効のあることで知られていて、先住民のマオリ族の人たちは、「癒しの木」「復活の木」などと呼んで、その葉を煎じて薬草として飲用したり、外傷の治療薬として利用したりしてきたことが伝えられています。

ポール:薬効を示す物質が何であるかはわかっていなくても、効果そのものは、遠い昔から活用されていたわけで、疫学的に、その有効性や安全性が確認されているという言い方ができます。私のおじのドン・ポールは養蜂家ですが、「マヌカハニーを食べている牛は病気にならないのをずっと不思議に思っていた」と話していました。

ヘンレ:ハチミツそのものが、栄養価の高い食品であるのは周知の通りです。ハチミツの成分は約80%が糖質で、残りのほとんどが水分です。その他の成分としては、タンパク質、アミノ酸、酵素、そしてビタミンB1、B2、B3、B6、C、E、K、葉酸、ビオチンなどのビタミン類、カリウム、ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、塩素、イオウ、リン、ケイ素などミネラルが含まれています。

ポール:主成分の糖質のほとんどは単糖類の果糖とブドウ糖で、消化吸収されやすいため、それだけ速やかにエネルギー源として使われるという特長をもっています。体を温め、血液の循環をよくするように作用することにもなります。
また、ビタミンやミネラルがバランスよく含まれているので、体調を整えたり、新陳代謝を活性化するといった作用を示します。こうしたさまざまな作用の相乗効果により、疲労回復や病後の体力回復を促すとともに、病気に対する抵抗力が高まるとされます。

ヘンレ:このように健康効果にすぐれたハチミツのなかにあって、地元のニューシーランドで、マヌカハニーが「ハチミツの王様」「世界で最も高級なハチミツ」などと称され、高い評価を得ているのは、特異的に強力な抗菌活性を示すためといえます。

寺尾:マヌカハニーの抗菌作用については、次回、詳しく話していきたいと思います。

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