注目のシクロデキストリン用途分野
シクロデキストリンの最新技術がまとめられた「シクロデキストリンの応用技術」(シーエムシー出版、監修:寺尾啓二、小宮山真、2008年2月発行)より抜粋
家庭用品、化粧品
CD需要量(約1万トン/2006年)の約半分が家庭用品に利用されているが、その最も使用量の大きいユーザーは米国プロクター&ギャンブル(P&G)である。洗濯乾燥機に使用する芳香シート「バウンス」にはβ-CDが、そして消臭スプレーの「ファブリーズ」と衣類用柔軟剤「レノア」には水溶性化学修飾CDであるヒドロキシプロピル化β-CDやメチル化β-CDが使用され、欧米や日本を中心に販売されている。
また、仏国ロレアル社から発売されたシャンプー「エルセーブ」にはβ-CDが用いられ、使用後の髪に真珠のような輝きが出るとして欧米で人気となり広く使われ始め、最近日本でも販売されている。
シクロデキストリンを使用した消費者向け製品例
会社名 | 商品名 | 用途 |
---|---|---|
Procter & Gamble | Febreze Bounce Lenor |
消臭芳香剤 洗濯乾燥機用芳香シート 衣料用柔軟剤 |
Pierre Fabre Demo Cosmetique | Klorane | ドライシャンプー |
コサナ | Free sol | 抗菌消臭靴中敷 |
コサナ | ナノラジアンスQ&A | 保湿化粧クリーム |
ユニチャーム | 超立体 | マスク |
東レ | 夢衣夢中 | 美容パック |
Beierdorf | Nivea Visage Q 10, Eucerin |
化粧クリーム |
Elizabeth Arden | Lizabeth Arden | 口紅 |
Loreal | Elseve | 高級シャンプー |
医薬品
医薬分野でCDを用いる主な目的は、薬理活性物質の水への溶解度改善、安定化、生体利用率改善である。ほとんどの場合、β-CDあるいはβ-CD化学修飾体が使用されている。その理由は、これまでβ-CDが最も安価で経済的に入手しやすいものであったためである。β-CDの難水溶性は医薬製剤化にとって一つの問題点であったが、注射剤にも適用できる数種類の高水溶性β-CD化学修飾体が開発され、解決された。
現在、世界的に見ると、CD含有医薬製剤は30製品前後とみられる。その内、錠剤型がほとんであり、注射型は少ない。しかし、最近になってファイザーやヤンセンファーマなどの医薬メーカーは、ヒドロキシプロピル化β-CDやスルフォブチル化CDを用いて注射剤を開発し上市した。
また、点眼剤にα-CDが使用されたり、薬理活性物質のマスキング(苦味低減)等にもα-CDが応用され始めている。
シクロデキストリンを使用した医薬製剤例
会社名 | 商品名 | CD | 活性物質 | 剤型 |
---|---|---|---|---|
Pfizer | Vfend IV | Sulfobutyl-β-CD | Voriconazole | 静脈注剤 |
Pfizer | Geodon | Sulfobutyl-β-CD | Ziprasidone | 筋注剤 |
Janssen | Sporanox | HP-β-CD | Itaconazole | 経口、静脈注剤 |
Novartis | Voltaren | HP-γ-CD | Diclofenac | 点眼剤 |
Novartis | Opalmon | γ-CD | OP-1206 | 錠剤 |
小野薬品 | Opalmon | γ-CD | OP-1206 | 錠剤 |
小野薬品 | Prostandin | α-CD | PGE1 | 輸液 |
小野薬品 | Prostavasin | α-CD | PGE1 | 動脈注剤 |
小野薬品 | Prostarmon E | β-CD | PGE2 | 舌下錠 |
Scwarz | Edex | α-CD | PGE1 | 海綿体注剤 |
武田薬品 | Pansporin | α-CD | Cefotiam HCL | 錠剤 |
明治製菓 | Meiact | β-CD | Cephalosparin | 錠剤 |
UCB | Zyrtec | β-CD | Cetrizine | 錠剤 |
食品・飲料
食品分野において、日本では2007年にα、β及びγ-CDの全てが食品添加物として認められた(食品添加物公定書 第8版)。使用目的としては、食品香料、色素、ビタミン類など揮発性物質や、熱や光、酸素に不安定な物質の保護安定化である。
α-CDは水溶性で難消化性であることから、食物繊維としてメタボ素材等にも用いられている。昨今、通常の難消化性デキストリンには見られない抗アレルギー効果(ヒト)や、動脈硬化の原因となる悪玉コレステロール(LDL)の元となる飽和脂肪酸を選択的に吸着し排泄(マウス)する効果が確認され、大変注目を集めている。
β-CDはコレステロール含有率の高い卵黄やバターなどに添加し、不溶性の包接体を形成させて除去し低コレステロール加工食品の製造に用いられている。
日本では、1970年代後半から既にCDはキャンディー、ガム、スープに使用されてきたが、最近ではさらに製パンやケーキ、粉末食品、菓子類、インスタント茶、インスタントコーヒーなどにも広範囲に利用されるようになってきている。
飲料向けでは、カテキンやイソフラボンなど有効成分の苦味渋味を低減する目的でCDが使用されている。CD含有飲料には花王の「ヘルシア」、伊藤園の「カテキン緑茶」の特保製品(特定保健用食品)の他、ハウスの「ウコンの力」、日本コカ・コーラの「大豆のススメ」などがある。
近年、市場を大きく伸ばしているのが、機能性食品やサプリメントへの応用である。100年に1つの逸材と言われているコエンザイムQ10や、αリポ酸、アスタキサンチンなどといった生理活性物質のCD包接体が市場で注目されている。いずれもγ-CDによる包接体で、小腸で生理活性物質が放出し吸収された後に、空になったγ-CDはゆるやかに消化酵素によって消化され、小腸内に吸収される。
主な機能性食品素材のシクロデキストリン包接体
機能性食品素材 | CDによって改善できる特性 |
---|---|
コエンザイムQ10 | 生物学的利用能、安定性 |
α-リポ酸 | 生物学的利用能、味覚、安定性、溶解度 |
アスタキサンチン | 生物学的利用能、安定性、分散性 |
クルクミン | 分散性、安定性 |
DHA | 酸化安定性、無臭化、粉末化 |