『国際シクロデキストリンシンポジウム』を京都で開催
日本はシクロデキストリンの先進国。オリジナル論文などの研究文献の数でも世界一
寺尾: 各国の持ち回りで2年に1回、『国際シクロデキストリンシンポジウム』が開催されています。今年5月、第14回目が日本の京都で行なわれましたが、その世話人を務めたのが小宮山先生でした。お疲れさまでした。
小宮山:『日本シクロデキストリン学会』の会長をしている関係で、やらせてもらいました。日本で開催されるのは、1984年の第2回目(東京)、1994年の第7回目(東京)に続いて、今回が3回目でした。約30カ国、約300人が参加して、予想していた以上に大盛況でした。
寺尾:外国人よりも日本人の方が多いように思いましたが、どうだったのでしょうか。
小宮山:ちょうど半分、半分ぐらいでした。アフリカ(ケニア)や南米(ブラジル)からも参加があり、シクロデキストリンが世界各国で利用されていることを如実に物語っていました。米国からはこの分野では勝てないと思っているのか、3~4人しか参加していませんでしたね。なお、日本はシクロデキストリンの先進国であり、オリジナル論文などの研究文献の数でも世界一を誇ります。
寺尾:私は今回、産業界の立場で講演を依頼され、γ-シクロデキストリンで包接されたCoQ10について話をしました。シクロデキストリンがサプリメントに応用されているケースとして大変興味をもってもらえたようです。なかでも、γ-シクロデキストリンの包接によって、48時間にわたり吸収性を持続する点や、CoQ10の弱点(熱や光に非常に弱い、さまざまな酸化性物質などと配合変化を招きやすい)がほとんど改善される点が関心を引いたようでした。
小宮山:前回はイタリアのトリノ、その前がフランスのモンペリエ、その前がアイスランドのレイキャビク、その前が米国のミシガン、その前がスペインのサンチアゴ・デ・コンポステラ…で開催されましたが、これらの国々での国際シンポジウムには、ほとんど参加しています。スペインでは、僕が『シクロデキストリンの化学』の著者のひとり、小宮山であることがわかり、大変な人気でした。30年ほど前の本の著者ですから、よほどの年配者と思い込んでいたようで、若々しい(というよりはまだ生きている!)僕が登場して、皆さんも随分驚いたようです(笑)。
もうひとりの著者であるベンダー教授は60歳代で早くに亡くなり、奥さんもその後を追うように亡くなってしまいました。しばらくの間、ふたりがいないノースウエスタンには行く気がしませんでしたね。それにしても、いまのような立場なら、ベンダー教授に何でもして上げられたのに思うにつけ、天国に行ってしまわれたことが残念でなりません。
シクロデキストリンは分解すると二酸化炭素と水に。この毒にならない安全性の高さこそ最高の魅力
寺尾:『日本シクロデキストリン学会』はとても和やかで、最初から一緒にやってきているせいか、理事の人たちも凄く仲がいいですよね。この学会が主催するシンポジウムは、1981年から毎年行なわれていて、来年(宇都宮開催)で第26回を迎えます(第1回と第2回は京都大学工学部・田伏岩夫教授主宰の勉強会。1984年、1994年、2008年は日本で国際シクロデキストリンシンポジウムを行なったため開催されていません)。
小宮山:歴代の会長をみると、初代が永井恒司先生、第2代目が長哲郎先生、第3代目が橋本仁先生、第4代目が上釜兼人先生、第5代目が服部憲治郎先生、第6代目が加納航治先生、そしていまの第7代目が私ということになります。
寺尾:第3代目に産業界から塩水港精糖(株)の橋本仁先生が就任していることは、アカデミーとインダストリーのバランスを考えたときにとてもよかったと思います。
小宮山:ひとつの物質で学会が成立していること自体、考えてみれば珍しいですよね。裏を返せば、それだけ、シクロデキストリンはとっつきやすいということだと思います。簡単に手に入り、安くて、水に溶けて、間違っても毒になることはない物質であり、しかも素晴らしい機能が出る可能性を常に秘めているわけですからね。今回の京都の国際会議にも、メキシコやブラジル、リトアニア、ヨルダンといった国々からも多数が参加してくれており、シクロデキストリンへの関心が高まっているのを実感しました。
寺尾:シクロデキストリンはブドウ糖が連なってできた環状オリゴ糖であり、そのブドウ糖は二酸化炭素と水でできています。つまり、シクロデキストリンをどんなに分解しても、二酸化炭素と水になるだけですから、安全性が極めて高いといえるのです。
小宮山:この毒性がないということ、安全であるということは、天然素材であるシクロデキストリンのいちばんの特長であり、価値であると思います。仮に、体内に入れたときに役に立たないにしても毒になることは決してないということは、じつに素晴らしいことです。
寺尾:シクロデキストリンが世界的に広がっている背景には、ワッカーグループの活動があると思います。ワッカーグループは約1万5000人の陣容で、世界各国に支社などをもっています。
小宮山:いまはもう存在しませんが、かつてのドイツの大手総合化学会社『ヘキスト』は10万人近くの社員がいたわけですから、ワッカーグループはそれに比べると10分の1程度ということになりますね。それで世界各国をネットワークしているのだから凄いですよ。
寺尾:たくさんの国々がシクロデキストリンに注目することで、その研究・開発もより盛んになることが期待できます。日本が工場生産に成功したときにも、試薬としてだけでなく、企業の研究員が意欲的に使うようになったことは大きな意味がありました。当時、シクロデキストリンを使用するアイデアがたくさん生み出されているのです。ほとんどが日本での特許の申請で終わっているのですが、それを読んでいるだけでも、こんな考えもあるのかと感心させられることが少なくありません。たとえば、γ-シクロデキストリンにCoQ10を包接するアイデアにしても、ゼリア新薬工業(株)ですでに発表していました。私の会社では5年前に、日清ファルマ(株)と共同で、熊本大学薬学部の上釜兼人教授に頼んで、ビーグル犬を使って、γ-シクロデキストリンに包接したCoQ10を摂取した場合の血中データを取ってもらいましたが、その検討もゼリア新薬工業(株)ですでに20年も前に実施していました。そういった意味でも日本はアイデアの宝庫です。
いろいろな業界の人たちに、学会での研究報告などとはまた別にこれらのアイデアの宝庫にも注目してもらい、画期的な開発に結び付けてほしいと思います。現代社会の大きな課題である環境問題の解決にも役立つアイデアがたくさんあるはずです。