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マヌカハニーとその抗菌物質MGO(食物メチルグリオキサール)(2)

マヌカハニー中の強力な抗菌物質は「MGO」であることがついに判明

マヌカハニー中の強力な抗菌作用をもたらす物質は長い間、特定することができず、「ユニーク・マヌカ・ファクター(UMF)」と呼ばれてきました。それがついに、「MGO」であることが判明したのです。UMF等級法およびMGO分析法について、また、なぜMGOの特定にこれほど時間がかかったかなど、MGOが同定されるまでの経緯とともに語り合いました。エビデンスを重視する両者だけに、熱のこもった時間が流れました。

マヌカハニーの抗菌力を示すUMF数値は消毒剤のフェノール希釈率を基準に計算

寺尾:ハチミツの抗菌性は昔からよく知られ、民間療法として役立てられてきた歴史がありますが、科学的裏付けを取るための研究もゆっくりとした歩みとはいえ進められてきたわけです。

ポール:ハチミツの抗菌活性については、1800年代後半に第1号の学術論文が発表され、1960年にはハチミツの抗菌物質として、グルコースから発生する過酸化水素が確認されています。

寺尾:そして1988年、ワイカト大学生科学研究所のピーター・モーラン博士率いる治療用蜂蜜研究チームは、ハチミツの持つ抗菌性に関する実験で、素晴らしい成果を見出しています。それは、ニュージーランドのある特定地域に自生するマヌカから採られるハチミツには、この過酸化水素とは別の特別強い抗菌物質が存在することを発見したのです。

ポール:しかし、ご承知のように、この段階では、その抗菌物質が何であるかを特定するまでには至っていません。そこで、名付けられたのが、「UMF(Unique Manuka Factor:ユニーク・マヌカ・ファクター)」。そしてモーラン博士はハチミツの抗菌作用の効力を査定するために、そのテスト方法とUMFという等級を考案したのです。UMF等級とは、ハチミツの抗菌作用の標準実験に基づいて求められ、よく知られている生体消毒薬フェノールの抗菌効力との比較によって、UMF10とか、UMF15とかいった等級に分けられるものです。そして、その数値でハチミツの抗菌力が示されます。

寺尾:つまり、マヌカハニーの抗菌活性度を表すUMF数値は、消毒剤のフェノール希釈率を基準に計算されるわけです。「UMF数値=フェノール希釈%」であり、たとえばUMF10は、フェノール10%希釈液に等しいことになります。UMFチャート(ワイカト大学および生産者組合の指針)によると、「低活性/UMF8.2~10」「中活性/UMF10~15」「高活性/UMF15以上」とされます。

ポール:一般的なハチミツはUMF0~1程度、UMFを含まないマヌカハニーはUMF0.5~4程度に対して、UMFを含むマヌカハニーはUMF10以上を示し、ほぼすべての細菌に抗菌作用が認められています。

寺尾:以来、モーラン博士は長年にわたる膨大な研究によって、UMF含有のマヌカハニーに広範囲の有害菌に対して殺菌作用があることを立証し、発表してきています。たとえば、黄色ブドウ球菌(傷口の悪化や眼の伝染病の原因菌)やヘリコバクター・ピロリ菌(胃や腸に棲む菌)、ストレプトコッカス・ミュータンス菌(歯周病や虫歯の原因菌)、大腸菌、サルモネラ菌、霊菌、化膿連鎖球菌、緑膿菌など枚挙にいとまがないほどです。
しかも、天然素材の特性として、化学薬剤にみられる身体に必要な有用菌まで攻撃してしまうようなこともなく、また耐性菌の出現もなく、副作用の心配がほとんどないことを指摘しています。

ポール:ですから、ニュージーランドでは、マヌカハニーは治療目的にも利用されています。「創傷治療」「歯周病、口内疾患、扁桃腺炎の治療」「皮膚疾患(ニキビや長期療養患者の床擦れによる皮膚障害などを含む)の治療」「十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胃がんの予防や治療」などに効果を発揮することが認められています。蛇足ですが、前回、私のおじのドン・ポールは養蜂家であると述べましたが、その昔、彼はマヌカハニーを酪農家に届けていたことがあり、マヌカハニーを食した牛が病気をしないことを不思議に思っていたと語っていました。牛によってすでに、マヌカハニーの抗菌力は実証されていたことになります。


MGOをキノキサリンに変換する分析法で物質中のMGO含有量を正確に把握

寺尾:マヌカハニー中に何らかの強力な抗菌作用をもたらす生理活性物質が含まれていることはわかっていても、長い間、それを特定することができず、「UMF」と呼んできました。しかし、ついにそれが「MGO(食物メチルグリオキサール)」であると同定される日を迎えることができたわけです。

ポール:2008年1月に発表されたドレスデン工科大学のトーマス・ヘンレ教授の論文により、マヌカハニー中のMGOの存在は世界的に知られるようになりました。

寺尾:それまでにも、マヌカハニーの優れた抗菌作用が何によるものか、いろいろ考察されてはきていました。ハチミツの抗菌物質といえばまず、グルコースから発生する過酸化水素が挙げられます。しかし、この過酸化水素は熱や光、体内酵素で分解されてしまいます。また、浸透圧の効果も考えられましたが、ハチミツは糖の飽和溶液であり、糖分子と水分子の強い相互作用で、微生物に利用可能な水分子はほとんど残りません。さらに、ハチミツは酸性(pH3.2~4.5)で多くの病原体を阻止できますが、希釈した場合、pHは上昇するので、酸性度は菌の増殖阻止要因とはやはり考えられません。もちろん、ハチミツ中にさまざまな抗菌活性物質…ピノセンブリン、リゾチーム、ベンジルアルコール、テルペン、シリング酸など…が含まれることが発見されてきましたが、その含有量は何れも有効な抗菌活性を示すには程遠いものでした。

ポール:ですから、マヌカハニー中の強力な抗菌物質は、熱や光、体内酵素にも分解されず、希釈してもその作用が失われないものということになります。MGOはまさしくそうした条件をクリアする物質といえます。

寺尾:では、なぜ、こうまで長い間、その正体がわからなかったのでしょうか。いまとなっては、その答えは簡単です。MGOは、求電子物質(electrophile)であるため、求核種との結合形成反応や二量体、三量体など多量体の形成反応によって、その形は変化してしまっています。よって、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)によるMGOの同定は困難でした。しかし、それらの反応は可逆反応ですから、MGOがなくなったのではなく、MGOは再生します。そこで、MGOをo-フェニレンジアミンという分子と反応させてキノキサリンに変換し、MGOの含有量を容易に測定することに成功したのです。

ポール:そして、MGOをキノキサリンに変換する分析方法により、それぞれの物質中のMGO含有量を正確に調べることができます。MGO100といえば、マヌカハニー1㎏中にMGO100mgが、MGO200といえば、マヌカハニー1㎏中にMGO200mgが、含まれることを示します。それで2008年5月、フードビジネスウィークリーをはじめ国際的な新聞各紙に、「不正確なグレード分けUMF等級法は、ハチミツ生産者にも消費者にも不幸。正確な評価法のMGO分析法を推奨する」という旨の記事が記載され、話題になりました。
MGOマヌカハニーは、“不正確なUMF等級法でなく、正確な評価法のMGOを採用”しているとともに、本物のマヌカハニーであることを示すものです。

寺尾:では次回は、マヌカハニーを摂取することによる具体的な効果・効能などを中心に話し合って行くことにしましょう。

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