株式会社シクロケム
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ニュージーランド産「プロポリス」とNF(神経線維腫症)治療効果(3)

世界でNFの患者さん150人以上がニュージーランド産「プロポリス」を試験中

RASがんを含む7割の癌やNF腫瘍の増殖を抑えるPAK遮断効果のある天然物として、丸田先生らのグルーブは、中国四川省特産の「花椒」、ニュージーランドのマヌカヘルス社のプロポリス「Bio 30」、「納豆」など、次々に見つけています。そして、 実際、世界でNFの患者さん150人以上が、このプロポリス「Bio 30」を試験中です。なお、プロポリスとシクロデキストリンを組み合わせることで、プロポリスの問題とされる吸収性や安定性が高まることが十分に考えられます。新しい進展を大いに期待しつつ、これからの協力関係を約束して最後を締めくくりました。

マヌカへルス社のプロポリス「Bio 30」にPAK遮断効果

寺尾:抗がん効果や抗NF効果の期待できるPAK遮断剤を、天然物のなかから探し出すことに踏み切ったのには何かきっかけがあったのですか。

丸田:一連のPAK遮断剤を開発したわけですから、あとは10~20年後に製剤として世に出て役立つのを目にし、満足しながら引退するのもいいなと思っていました。ところが、NFの患者さんやその家族などを中心に、「いますぐに、PAK遮断剤を」といった切羽詰ったメールが続々届くわけです。
たとえば、2002年の8月にシドニー在住の母親マリーローズさんから初めてメールを受取りました。末っ子の8歳の息子さんがNF2を発症していて、良性の脳腫瘍(メニンジオーマ)による圧迫で視神経が障害され、視力が減退してきているというのです。最終的には外科的手術や放射線治療に頼らざるを得ないかも知れないが、近辺の神経をキズつけて、後遺症が残ることがとても心配なので、PAK遮断剤について問い合わせてきたわけです。彼女は息子のために、独学でNFについて勉強していて、NIHのライブラリーから出ている研究論文の要旨集をインターネットで見つけ、私の研究についても調べ、「PAK遮断剤が私の息子にも効果があるのでは」と突き止めたのです。
薬剤の販売までに時間のかかることはわかっているのですから、こうした熱い思いに触れるにつけ、今すぐに利用できるもの、つまり、健康補助食品などを含めて天然物のなかから、有効なPAK遮断剤を探そうと決心したわけです。

寺尾:そのために、ルードビッヒがん研究所(LICR)を辞職して、新たな研究グループに客員として参加し、共同研究をしていこうという決心は相当なものだったんですね。

丸田:米国や豪州の研究所では、研究者のキャリアに定年がありません。クリアな頭脳と研究心とエネルギーがあれば、いつまでもどうぞというスタンスです(例えば、NIH時代の私の昔のボスは80歳を越えていますが、まだNIHで土壌アメーバのPAKに関する研究を続けています)。しかし、市販されている天然物の研究となると、特許にはなかなか結びつきませんから、民間のがん研究所であるLICRからは積極的なサポートがもはや得られないだろうと思いました。私も60歳を超えて、そろそろ退職準備をしてもいい時期を迎えていましたので、ここを一区切りに、象牙の塔を出て、患者さんの視線で仕事をしてみようと決意したわけです。

寺尾:最初に手応えを感じたのは、中国料理「麻婆豆腐」でお馴染みの四川省特産の「花椒」だったと聞きました。完熟した赤い実から取る山椒の仲間のようなものですよね。

丸田:2005年の初めごろ、中国系研究者仲間のキッチンから花椒を分けてもらいました。そして、5~10gをエタノール70%で抽出し、そのエキスを乾燥させたもので腫瘍細胞を処理して、PAKの活性をみたところ、思った通り、ド~ンと落ちました。つまり、花椒のアルコールエキスがPAKを特異的に遮断するということです。しかし、花椒を大量に使って抽出したエキスには苦味があり、患者さんには蜂蜜を加えて勧めたほうがいいのではと考えました。それで、「ハニー・ペッパー」として製品化して売り出そうしたのですが、ビジネス的に難しいことがわかり、これは結局、実現しませんでした。

寺尾:花椒よりもさらにPAK遮断剤として手応えを感じたのが、プロポリスということでした。それも、(株)シクロケムが昨年5月に独占販売契約を結んだニュージーランドのマヌカヘルス社の製品と聞いて、何というか、目に見えない糸で繋がれているような運命を感じたものです(笑)。

丸田:花椒に加える蜂蜜について検討しているうちに、マヌカヘルス社のマヌカハニーに興味をもったというわけです。さらに、その延長線上で、この会社から販売されているプロポリス「Bio 30」を知ることになりました。2006年の初めでした。インターネットを見ていたときに、「ニュージーランド産のプロポリスには、ある抗がん作用物質が最も豊富に含まれている」というポスターが目に飛び込んできて、よりいっそう興味を引かれることになります。「これはどうやら、私の目指しているものらしい」という強い感触を得たのを、いまも覚えています。

寺尾:ここでいう、ある抗がん作用物質とは、ポプラなどの若芽由来のCAPE(カフェイン酸誘導体)を指します。プロポリスは産出する国によって、その主要な有効成分に特徴がみられます。ニュージーランド産は桂皮酸誘導体のCAPE、ブラジル産はアルテピリンC、そしてヨーロッパ産や中国産はポリフェノールといった具合です。シドニー大学和漢薬研究所のムーアらのグループが、さまざまな産地のプルポリス中のCAPE含量を分析したところ、ニュージーランド産のプロポリスが最高の含量を示したことを発表しており、それがポスターの裏打ちになっていたのだと思います。
しかし、この発表に対して、静岡県立大学の熊澤茂則先生は、ニュージーランド(NZ)産プロポリスのCAPE含量は、実際には中国の華北/湖北産プロポリスとほぼ同程度で、それほど飛び抜けて高いわけではなく、含量の高いピノバンクシン酢酸エステルとピークが重なって、見かけ上多く見えた可能性があるとして、否定的な見解を示しています。なお、マヌカへルス社のCEO ケリー・ポールは、「熊澤茂則先先生が調べたNZ産プロポリス原塊中のCAPEの含量がたまたま少なかったために、こうした食い違いが起こったのでは」と推測していました。

丸田:いろいろな可能性が考えられます。同じ国内でも、特定の産地によって(例えば、沖縄と北海道では)、プロポリス成分の含量がずいぶん違いますから。日本列島のように南北に長く延びるNZでは、南島産と北島産では、プロポリスの成分に違いがあっても不思議じゃないでしょう。重要なのは、CAPEの含量もさることながら、「Bio 30」が実際にPAK遮断効果を示すということです。これは、動物実験によって明らかにされています。さらに重要なのは、CAPEそれ自身は脂溶性のため、経口しても胃から吸収されにくいのですが、「Bio 30」のなかに、CAPEを溶かす脂質が含まれているので、吸収性が高められているということです。また、「Bio 30」のなかに各種のポリフェノールが含まれており、それらとCAPEとが明らかに相乗効果を発揮しているということです。
そもそも、コロンビア大学のがん学者グルンバーガー教授がすでに20年以上も前に、温帯地域で採れるプロポリスに抗がん効果のあることを発見しており、同大学の(カイコの発生ホルモン「エクダイソン」や銀杏由来のハーブ「ギンコライド」で)有名な天然物有機学者の中西香爾教授と共同で、イスラエル産プロポリスの有効成分がCAPEであることを同定しています。


プロポリスをシクロデキストリンで包接すると吸収性や安定性が促進

寺尾:日本プロポリス協議会からの依頼で今春、「シクロデキストリンによるプロポリスの特性改善」と題した講演を行ないました。それもあって、プロポリスについても改めて勉強することになりました。当日、講演者は私のほかにもうひとりいて、その人が先に講演したのですが、その話を私が全否定するようなカタチになってしまいました。
彼はアミノ酸でブラジル産プロポリスの水溶化に成功したという話をしたのですが、これは無謀です。ブラジル産プロポリスの主要な有効成分はアルテピリンCで、これとアミノ酸が反応すると、カルボン酸や窒素を有する物質になるので、確かに水に溶けやすくなります。しかし、その物質はもとのアルテピリンCとはまったくの別物になってしまうので、アルテピリンCを含まないプロポリスとなってしまうのです。体内に入る前に反応させてしまっては、せっかくの有効性が発揮されないことになります。私の博士論文のテーマの一つが桂皮酸誘導体の反応だったものですから、20年ほど前のことが甦ってきて、これには唖然としてしまいました。

丸田:それはまさに、「God's will(神の思し召し)」ですね(笑)。

寺尾:サプリメントは医薬品ではありませんが、同じように、安定性や吸収性、安全性などを考慮して製造することが肝要なのはいうまでもないことです。話が少し戻りますが、 ニュージーランド産プロポリスの主要な有効成分のCAPEは脂溶性で、体内に吸収されにくい特性があるということでしたが、これをシクロデキストリンで包接すると、水への溶解性が改善され、吸収性が十分に高まります。シクロデキストリンは底のないカップ状をしていて、内部は脂溶性、外側は水溶性の性質をもつため、こうしたことを容易に実現してくれるのです。
しかも、シクロデキストリンは凝集している分子集合体の分子間力を断ち切ることで分散性を高め、吸収性を向上させてくれます。その他にも、プロポリスの問題点とされる、「におい、ピリ辛い味」「吸湿性」「容器への付着」「低生体利用率」「エキスとしての安定性」など、ことごとく解決してしまいます。「粉末化」も可能です。こうしたことは、その発見者がノーベル賞を受賞したほどすぐれた物質であるコエンザイムQ10でも経験済みです。

丸田:もうひとつ加えると、納豆に含まれるビタミンK2(メナキノン7)にもPAK遮断効果が認められます。このビタミンK2はカルシウムの吸収性を高める効果もあり、(株)ミツカンの販売する納豆「金のつぶ ほね元気」はここに注目した製品で、ビタミンK2の含量を明記しています。

寺尾:納豆といえば、自治医科大学の早田邦康先生は、納豆に含まれるポリアミンにアンチエイジング(抗老化)効果が期待できるといいます。高ポリアミン食を与えたマウスと与えていないマウスでは毛並みに大きな差があったことを報告しています。なお、納豆のアンチエイジング効果を否定する報告があるのも事実で、いろいろ知っておくことが重要であると思っています。

丸田:現在、世界で150人以上のNF1とNF2の患者さんが、プロポリス「Bio 30」を治験しています。皆さんには前もって、「動物実験ではPACK遮断効果が確認されており、人間にもその可能性が期待できます。ともかく副作用はないので、試してみたいと思う人は試してください」と話しました。参加する患者さんには、マヌカヘルス社が割安で提供してくれています。2~3年経過したら、結果を教えてくれることになっていて、それが将来、より本格的な、より総合的な臨床試験のための参考になればと希望しています。PAK依存の疾患には、NFやがん以外にも、エイズ(HIV感染)、リュウマチなどの関節炎、いわゆる認知症(アルツハイマー病)や脆弱X染色体精神遅滞症候群などもあり、「Bio 30」の効果を試験することが望まれるからです。

寺尾:全員に試してもらう方法を選んだのには、理由があるのですか。

丸田:科学的には、グループをふたつに分けて、「Bio 30」とプラシーボ(偽物)を摂ってもらい、その間に有意な差があるかどうかを検討するといった二重盲検法が治験の常道かも知れませんが、今回の場合、効果に自信があるだけに、希望者には全員にという人道的な立場を取りました。
1940年制作の名画で印象に残っているシーンがあります。ポール・エーリッヒと友人のエミール・フォン・ベーリングは一緒に、当時ヨーロッパ中に猛威を奮っていたジフテリアに対する治療薬の開発研究を行なっていて、入院している40人の子どもたち(ジフテリア患者)に抗血清の臨床試験をすることになりました。20人には抗血清を、もう20人には血清を投与するよう、病院長から指示が出ていました。ところが当日、まず19人の子どもたちに抗血清を投与していているうちに、最後(20番目)の子が急死してしまい、代わりに(プラシーボ投与予定の)21番目の子に注射を済ませた後、病室の窓ガラスごしに我が子の運命を気遣い、一部始終をじっと見守っている父兄たちと目があうのです。その瞬間、彼らは、病院長の指図を無視し独断で、残り全員にも抗血清を投与してしまいます。それを看護婦から聞いた病院長は、かんかんに怒って飛んできました。 エーリッヒは、静かに弁解しました。
「私は医師として、これら瀕死の子どもたちを(プラシーボで)見殺しにはできません。病院長、どちらが正しい(人道的)か、患者の父兄ひとりひとりに直に意見を訊いてみて下さい!」
結果次第では、職を失いないかねない彼らは、不安な一夜を病院に当直しながら過ごします。翌日、文部/厚生大臣から突然お呼びがかかり、これは失敗に終わったに違いないと免職を覚悟しながら、おずおずと出掛けて行くと、「君、病院長からまだ結果を聞いていないのかね。大成功だったよ。ところで、君にぜひ会ってもらいたい人物がいるのだが」といわれるのです。面会したのは、あの21番目の子どもで、何と大臣本人の孫娘とのこと。そのお蔭で、「何を研究してもいい」という御墨付きで新しい研究所をもらうことになります。状況はぜんぜん違いますけど、この映画「エーリッヒ博士の魔法の弾丸」のことを、つい思い出しました(笑)。

寺尾:NFの患者さんの場合、幼い子どもから高齢者まで年齢層も幅広いでしょうし、症状も重篤な人から軽い人までさまざまでしょうから、方法論はともかくとして、臨床試験を始められたことに大きな意義があると思います。

丸田:「Bio 30」のようなCAPEを主要な有効成分とするプロポリスの問題点として、わずか1-2%の人とはいえ、アレルギー皮膚反応のあることが挙げられます。実際、私自身が該当しており、痒い発疹が出てしまいます。私の母(現在91歳)や祖母は同じく75歳前後に胃がんの手術をしており、幸いにもその後十数年以上元気に過ごしていますが、私も癌になったら、「Bio 30」で治そうと思っていたのですが、当てが外れてしまいました。その場合は、値段がずっと高くなりますが、アレルギーの心配のない、ブラジル産のグリーンプロポリスを摂ることにします(笑)。これもその抗癌成分である「アーテピリンC」により、PAKを遮断します。

寺尾:これからのプランとして、各地のプロポリスの原塊を集めて、主要な有効成分とされるCAPEの含量をきちんと把握しておこうと考えています。また、「Bio 30」とシクロデキストリンを組み合わせて、どのようなPAK遮断効果を示すかを調べたいと思っています。その場合、丸田先生にいろいろご指導していただきたいのですが、お願いできますでしょうか。

丸田:もちろんです。その場合、NF1よりもNF2腫瘍を動物実験の対象にするほうが増殖が早いので、ベターである(結果が短時間に得られる)とか、これまでの経験をベースにいろいろアドバイスできると思います。

寺尾:今後ともよろしくお願いいたします。日本に滞在中の貴重な時間をさいていただきまして、ありがとうございました。

終わりに

丸田:重要なのは、プロポリス『Bio 30』が実際にPAK遮断効果を示すということです。これは、動物実験によって明らかにされています。
『Bio 30』のなかに、CAPEを溶かす脂質が含まれているので、吸収性が高められるとともに、各種の抗癌性ポリフェノールが含まれており、相乗効果が発揮されます。

寺尾:プロポリス『Bio 30』中の主要な有効成分であるCAPEは脂溶性なので水への溶解性が低く、吸収性が低いことが難点です。しかし、シクロデキストリンは凝集している分子集合体の分子間力を断ち切ることで分散性を高め、吸収性を向上させてくれますのでCAPEの吸収性も高めてくれることが期待できます。

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