株式会社シクロケム
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サイエンストーク科学の現場
補完代替医療(健康食品)の現況と今後(2)

健康食品は、その成分の安定性の確認や、不安定な成分を安定化させる技術が施されていることが大切

今回は、健康食品の安全性や有用性を科学的に確認することがいかに大切であるかをテーマに話が展開しました。コエンザイムQ10の場合、私たちの体内に常在成分として存在しているものと、食品素材として微生物などから抽出したものは同じ物質ですが、その抽出物は生体内における環境とは異なり、同一物質の集合体として存在しています。また、食品素材が機能性をもつということは、反応性を有していることを意味しています。つまり、生体内有用成分は生体外ではもはや自然の状態ではなく不安定な場合が多く、安定化させる工夫・技術が必要になります。しかし、安定化させる工夫・技術に問題があれば、健康被害にもつながりかねません。それだけに、ヒト臨床試験などにより科学的に安定性向上や技術の安全性、有用性を実証することが重要になってきます。「科学は万能ではないにしても、現実には無作為化(ランダム化)比較試験などによって具体的な数字で示して、その健康食品の効果について科学的にシロ・クロはっきりさせことが大事です」と語る大野先生のきっぱりとした口振りが印象的でした。

コエンザイムQ10などの生体内有用成分には生体外で安定を保つ工夫が必要

寺尾:私は、大野先生と出会うきっかけになったメディカルサプリメントアドバイザー認定講座(2009年6月)の講演でも話したのですが、健康食品で用いられている機能性成分は決して安定性の高いものばかりではなく、組み合わせによっては分解したり、効果が消滅したり、さらには毒性が発現するものもあります。ですから、健康食品は、その成分の安定性の確認や、不安定な成分を安定化させる技術が施されていることが大切になります。
しかし現実には、健康食品は医薬品と違い、有効成分の反応性を考慮せずに配合したり、体内吸収性や崩壊時間などをきちんと見極めて製剤化していないものも多くみられ、この点が何といっても大きな問題だと考えています。

大野:たとえば、目にいい健康食品を製造しようとすると、目の機能活性に効果の認められる成分をいろいろ集めてきて混合すれば、それで十分というようなメーカーもあるわけです。成分同士が反応して、かえって目に悪影響を及ぼすことになるかもしれないといったところまでフォローが及ばないのは恐ろしいことです。

寺尾:大野先生は前回、健康食品の相談に来られた患者さんに「どうぞ」と勧めるには、その製品がヒト臨床試験により科学的裏付けを得ていることが条件になると述べられました。

大野:健康食品は、その内容には無頓着で売れることだけを目的にしたものから、エビデンスをきちんと整えることを重視したものまで、まさに玉石混淆ですから、患者さんに勧めるとなると、ヒト臨床試験により安定性や有効性が科学的に実証されていることが重要だと思っています。
周知の通り、健康食品はあくまでも食品であり、薬事法の関係で効果・効能を表示できません。食品のなかでもトクホ(特定保健用食品)に限ってはヒト臨床試験が必須とされ、病名まではいえないものの、「コレステロールが気になる方へ」「血圧が気になる方へ」といったカタチで、ある程度の健康表示が許容されています。

寺尾:法律で効果・効能を表示できないにしても、私の専門分野が有機化学合成ということもあり、私ども(株)シクロケムで開発した健康食品に関しては、有用性についてヒト臨床試験を行なうようにしています。
最近では、高血圧やひざ痛、骨粗鬆症、疲労、酸化ストレスなどに対する健康素材(抗疲労:リポ酸、コエンザイムQ10/ひざ痛:コラーゲンペプチド、グルコサミン、コエンザイムQ10)に関してヒト臨床試験を行ない、神戸で催された日本臨床栄養学会(2009年)で、それらの臨床データを6つ発表しました。高いのか安いのかはとらえ方で違うでしょうが、これらの試験に合計2000万円ほどの経費を使っています。
ひざ痛に対する臨床試験では、まず60人をスクリーニングして20人を選び出し、専門医に診断データを作成してもらったうえで、健康素材の摂取により有意差をもって痛みが軽減するかどうかを調べたのですが、はっきりと効果が認められました。通常、ひざ痛で整形外科を受診すると、「老化現象により軟骨が擦り減ったのが原因。軟骨は再生しないので治りません。ひざに痛みの出る年齢になったと思ってください」といわれることが多いのに対して、国際学会などでは「軟骨は再生する」という報告が数多く発表されています。
日本でも、鳥取大学農学部の南三郎先生が、コラーゲンやムコ多糖体、硫黄源など軟骨成分を摂取すると軟骨を修復・再生させることができることを、犬を使用した実験で明らかにしていました。これらの軟骨成分の配合割合も明示しています。私どもでは、さらにコエンザイムQ10やビタミンCなどを加えることで、軟骨の再生をより促進すると推察し、いろいろ実験を積み重ねた結果、ついにコラーゲンペプチド、グルコサミン、そしてコエンザイムQ10を主成分とする健康食品をつくりあげたのです。

大野:コエンザイムQ10はかつて医薬品に分類されていたのが、2001年から食品成分としても利用が許可され、健康食品に広く利用されるようになった経歴がありますね。

寺尾:コエンザイムQ10は私たちの生命活動に不可欠な常在成分で、エネルギーの生成を促して細胞を活性化する作用や抗酸化作用などがあり、たいへん素晴らしい健康素材なのですが、吸収性が悪く、しかも光(紫外線)や熱に非常に弱く、求核性物質と一緒になると配合変化を招きやすい不安定な成分であることも明らかにされています。
ところで、こうした弱点を克服してくれる強い味方ともいえる存在が、γ-シクロデキストリン。このγ-シクロデキストリンでコエンザイムQ10を包接することで、コエンザイムQ10の吸収性を高め、熱に対する安定化を促し、求核性物質に対する配合変化を回避するというように、その弱点のほとんどを改善してくれるのです。ただし、γ-シクロデキストリンといえど、光に対しては安定性の改善をもたらすとはいえません。そこで、私どもでは、コエンザイムQ10の紫外線による劣化を避けるためにアルミ袋を採用することにしたのです。

大野:コエンザイムQ10にしても、私たちの体内に常在成分として存在しているものと、食品素材として微生物などから抽出したものでは、同じものではないのです。機能性をもつ食品素材は反応性を有しています。要するに、生体内有用成分は生体外ではもはや安定ではなく、したがって安定を保つ工夫が必要になるということです。

寺尾:そのために、食品加工者にも化学の知識が必要とされることになります。

大野:がんに対する健康食品は、がん治療の副作用軽減や術後の体力回復など、通常医療の補完的な役割が主に期待されるのですが、がんという病気の性格上、ヒト臨床試験というのはたいへん難しいといえます。

寺尾:腫瘍のヒト臨床試験で思い出したことがあります。プロポリス評議会(2009年)でシクロデキストリンの講演を頼まれた際、プロポリスに抗がん作用があるかどうかを調べたことがあります。そのとき、神経線維腫(良性の腫瘍)に対するニュージーランド産プロポリスの研究をしている丸田浩先生を知りました。奇遇というか、このプロポリスを製造・販売していたのが、(株)シクロケムとは「マヌカハニー(ニュージランドに自生するマヌカの花から採ったハチミツ)」などを通して繋がりのあるニュージーランドのマヌカヘルス社だったのです。
この病気は患者数が少ないこともあって、医薬品メーカーの動きが鈍く、開発中の薬も世に出るまでにはまだ10年近くかかる見込みとされています。そこで、丸田先生は食品のなかからより有効なものを探すことにして、行き当たったのがプロポリスだったということです。現在、希望者に対してマヌカヘルス社が自社のプロポリスを割安で提供し、臨床試験が行なわれているところです(詳しくは『シクロデキストリン科学の現場-7』を参照してください)。

ヒト臨床試験は4相の段階で安全性から有用性まで科学的にチェック

寺尾:医薬品の加速試験では1ヶ月間、40℃・湿度75%という過酷な状態に置いたままにした後、変化をチェックし、問題がなければ、6ヶ月保証を表示します。(株)シクロケムで開発した健康食品については、安全性の評価のために、この医薬品と同様、過酷な条件下での加速試験を行なっています。

大野:健康食品でもそこまでできればいいのでしょうが、よほど意識が高くないと難しいわけで、そこが課題でしょうね。

寺尾:試験をすると思いがけない結果に出くわすことがあります。最近では、これも前出の日本臨床栄養学会で発表した臨床試験のひとつですが、コラーゲンペプチド・グルコサミン・コエンザイムQ10を主成分とする健康食品が軟骨だけでなく、骨密度にも影響をもつかどうかを調べたときがそうでした。
おもしろいことに骨密度は健康食品を摂取してから最初の3ヶ月間は低下し、その後上昇していったのです。それで、6ヶ月間にわたり調べ続けなければ、その効果の動きがわからないことが判明しました。つけ加えると、骨の強度には骨密度だけでなく、骨の質も大きく関わっていますので、骨質が悪化すると、骨折を繰り返す可能性があるといわれている点にも気をつける必要があります。

大野:繰り返し登場している「ヒト臨床試験」という言葉ですが、これは単独の試験を指すのではなく、段階的に種類があります。医薬品の場合、その段階は一般的に4段階になっていて、①1相目は安全性の臨床試験。薬はあくまでも化学物質ですから、副作用があるわけで、効果とのバランスをはかって適切な服用量を調べます。②2相目は、例えば100人中何人ぐらいに効果があるのか、つまり効果を示す人をパーセンテイジ(%)で調べます。③3相目はいわゆる無作為化(ランダム化)比較試験。患者さんをふたつのグループに分けて、一方に試験薬を、もう一方にプラセボ(ニセ薬)、あるいは既存の薬を与えて、両者の効果を比較します。この段階で、試験薬に有意差のある効果が認められれば、製品化が可能ということになります。そして、④4相目は製品化され後の調査で、多くの利用者が対象となります。第3相臨床試験で医薬品として認められていても、このよう販売後の調査を行なうことで、ごく稀なケースとはいえ、新たに副作用などがみつかり、販売が取り消しになったケースもあります。

寺尾:医薬品のヒト臨床試験というのは、お金と時間をかけてきっちりと行なわれているということです。

大野:これが健康食品のヒト臨床試験となると一般には、1相目の安全性と2相目の効果を示す人のパーセンテイジを調べるところまでというのが大半です。なお、トクホに認可されるにはさらに3相目の無作為化(ランダム化)比較試験によるデータを提示することが求められます。そのために、製品の開発に、1~2億円の研究費が掛かるといわれます。私は、トクホだけでなく、健康食品についても、可能であれば3相目の試験が必要だと思っています。
科学は万能ではないにしても、現実には無作為化(ランダム化)比較試験によって具体的な数字で示して、その効果のシロ・クロを科学ではっきりさせことが大事だと考えます。

寺尾:確かにヒト臨床試験はその薬なり食品なりの有用性について検討するうえで大切な試験なわけですが、試験管試験や動物実験などもそれなりに意味があるのはいうまでもありません。試験管試験は信頼性が低いとはいえ、コンディションを一定にすることができますから、何回繰り返しても同じ結果を得ることができます。それに対して、ヒト臨床試験は信頼性が高いにもかかわらず、コンディションを一定にできないので、結果にもバラツキが出ることになります。動物実験は、これらの中間に位置づけられると考えられます。つまりは、これらの試験や実験のいずれも必要ということです。

大野:健康食品の効果がヒト臨床試験で認められたとしても、綿密にいえば、症状や体調そのものに効いたのか、または免疫システムなど体のメカニズムに影響を及ぼすことで効果が現れたのか、その因果関係がはっきりわからないものもあります。こうした不明な点を明らかにするには、臨床試験に加えて、健康食品を体内に取り組むと、遺伝子レベルでDNAやタンパク質などにどのような作用を及ぼすのかを探る基礎研究も必要となります。
一方、医薬品では、これらの基礎研究は、臨床試験が行われる前に実施されていることが普通です。しかし、健康食品の多くは、これら基礎研究が行われることなく商品化され、既に市場に流通し、消費者が利用している実態がありますので、今後は効果のメカニズム解明のために、基礎研究も行われていく必要があると思います。

寺尾:本当の意味で有用性を見極めるには、臨床試験と基礎研究のどちらからもアプローチすることが大切ということですね。

大野:厳密には、保険診療のなかで使われている薬のすべてにおいて、その効果のメカニズムが明らかになっているわけではありませんし、医薬品として使われるようになった後に、新たなメカニズムが明らかになるような場合もあります。それを考えると、医療従事者も謙虚な気持ちで補完代替医療を見直して、もう少し前向きに受け入れる態勢に変えてもいいのかなという気もします。


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