株式会社シクロケム
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補完代替医療(健康食品)の現況と今後(3)

健康食品の安全性や有用性に関して国レベルでルールをつくることが重要

健康食品は今後、どのような方向を目指して進んで行くことになるのでしょうか。利用者の信頼に応えるために、健康食品の安全性と有効性に関して国レベルでルールがつくられることが急務とのこと。健康食品の先進国の多くでは着実にそれが実現していっています。また利用者自身、健康食品の選択基準をヒト臨床試験などに基づく科学的根拠とし、その科学的根拠を正しくとらえるために情報の取捨選択とともに、情報のリテラシー(読解技術)を高めることが大切といいます。そしてメディカルサプリメントアドバイザーをはじめとして医療従事者の熱心な取り組みで、医療現場において健康食品に関してコミュニケーションをとっていくことがよりスムーズになることが期待されます。これから補完代替医療としての健康食品と上手に付き合っていくためには、何より科学的視点が重要であることを対談の間に何度も力説されたおふたりでした。

日本では漢方薬は通常医療に分類され医学部のカリキュラムにも組み込まれる

寺尾:漢方薬は広く通常医療に利用されるようになっていますが、西洋医学の範疇でないということで、補完代替医療に分類されるのですか。

大野:日本では漢方薬は保険診療として認められ、通常医療に利用されるようになった段階で、補完代替医療から通常医療に切り替わりつつあります。ただし、健康保険の適用になっていない漢方薬は従来通り、補完代替医療に分類されることになります。米国ではもとより漢方薬は法律上で医薬品ではなく、ハーブ、食品に分類されているので、補完代替医療として認識されています。

寺尾:通常医療と補完代替医療には、漢方薬のように国によって分類が違ってくるほど、かなり近いものもあるということですね。

大野:漢方薬の効果を確かめるために行なわれた無作為化(ランダム化)比較試験の結果をまとめた報告(学術論文)をみてみると、その多くは、漢方薬による効果が60%、プラセボによる効果が40%ぐらいという結果になっています。この差20%が漢方薬の力であり、薬として認められる根拠となります。漢方薬が通常療法に利用されるといっても、そういうレベルです。なお、改善効果が60%ということは、残り40%は効いていないということです。
効いていない人も、種類の違う漢方薬を服用したなら効果があるかも知れません。それぞれの漢方薬がどのようなしくみで効くのか、あるいはなぜ効かないのか、まだまだわからないことは多く、その答えは今後の研究の成果を待つことになります。

寺尾:大学の医学部でも漢方の授業が行なわれるようになっていますね。

大野:漢方の生薬や効果のメカニズムについて解説できるようになるのを目標に4~8コマ(1コマ=90分)の授業が組み込まれています。いずれは漢方が国家試験にも出題されるともいわれており、通常医療としての地位をますます確かなものにすると想像できます。
歴史を大まかにたどると、江戸時代は漢方が主流だったのが、明治に入って医学をドイツに学び、医師免許ができた頃から漢方は邪道とみなされるようになり、やがて田中角栄元首相の時代、日中国交正常化が実現する(1972年)とともに、「漢方を医薬品として見直しましょう」という動きが少しずつ活発になっていって、通常医療に組み込まれるまでになり、現在を迎えていることがわかります。

寺尾:いま、補完代替医療や統合医療の講座をもつ大学はどのくらいあるのですか。

大野:金沢大学、大阪大学、そして東京女子医科大学の3校です。これからどのくらい増えるかは、国の予算がどのくらいつくかにかかっているでしょうね。


健康食品を正しく選ぶには情報の取捨選択をすることが肝心

寺尾:今後の課題として、何といっても健康食品に対する信頼性を確保するために、安全性や有用性に関して国レベルでルールをつくることが重要だろうと思っています。

大野:同感です。少なくても、“品質管理を義務づける”“健康被害の(副作用の症例など)の警告を徹底する”“効果・効能をある程度表示する”といったことに関して、国レベルのルールがほしいところです。ヨーロッパではEUとして、健康食品に対する安全性の共通の基準を設けています。また今秋(2009年)から、健康食品の有効性に関して、風邪の引きはじめにいいとか、ひざ関節の痛みにいいとか表示することが認められるようになります。

寺尾:中国や韓国でも、この健康食品は免疫を増強する効果があるといった表示が許されています。

大野:EUが健康食品の有効性を認める基準づくりに参考にしたのがじつに、日本の厚労省が作成したトクホの認可基準だったということです。もちろん、トクホの認可基準は厳し過ぎるとして、あくまでも“参考”に留まったようですが…。それにしても、日本の場合、当局に「健康食品の有効性に関するルールづくりをしてください」と要望すると、「うちには、トクホの認可基準がある」とこれ一辺倒の返答なのが、何とも問題です。

寺尾:利用者の立場に立てば健康食品を購入する際、何の症状を対象にした製品なのかぐらいはチェックできるような、もう少しわかりやすい目安となるものがほしいだろうと思うのですけど…。

大野:カナダは懐の深い国というか、健康食品の有効性について段階をもって表示することを認めています。品質の安全性をクリアしたうえのことですが、「民間療法として利用されている製品」とか、「臨床試験によって効果・効能が確認されている製品」とか、有用性を実証する信頼性のレベルに合わせて表示されています。ですから、当局のお墨付きといっても、表示によってエビデンスの程度には幅があり、そこは消費者の選択にまかされています。

寺尾:日本では有用性の表示がまだまだ難しいのであれば、まずは早急に品質管理など安全性に関するルールだけはしっかり設けてほしいですね。前回、お話したように、たとえばコエンザイムQ10は光や熱に弱く、また求核性物質と一緒になると配合変化を招きやすいといった不安定な成分であるわけで、こうした弱点の対策が取られているかどうかをチェックできることは健康障害に関わることでとても重要です。
私は講演などでも、マイナス面ともいえる、こうした健康素材の弱点をはっきり指摘し、そこからゼロ地点に戻すための工夫についてお話しすることがあります。先日は、私の講演を聴いてくださったのがきっかけでもっと詳しく話してほしいと、銀座オクトクリニックの伊藤先生が開いているサプリメントの勉強会に講師として招かれるということがありました。サプリメントに理解のある医師が東京周辺だけでなく、大阪や静岡からも、診察終了後に集まり、2時間に及ぶ勉強会を継続的に行なっているのを知って感激しました。患者さんを思って、医師のなかにもこうした変化が出てきていることは何とも嬉しい限りでした。

大野:利用者もまた、より成長することが重要であると思います。健康食品を飲んでいる患者さんに、「効いているか・効いていないか実感していますか」とアンケートを取ったところ、70%の人が「わからない」と答えました。それでも使い続けている理由はいろいろあるかと思います。
その中で、私が最近気になっているのは、“高額な製品であるから効かないわけがない。効かなくては困る” という、認知的不協和といわれる心理的な歪みが背景にあるのではないかということです。困ったことに、製造・販売者のほうでそうした利用者の心理に付け込んで、難しい病気なほど値段を高く設定するケースが珍しくないということです。
また、医薬品は医師の指示で服用するので効果が認められないと「これは止めたほうがいいのでは」と疑問がわきやすいのですが、健康食品は自分で選択したものなので、このチェック機能があまり働かないという傾向があります。

寺尾:自分で選んだものだけに引くに引けないといった心理が働くのでしょうね。

大野:がんなどの場合、家族や親戚といった身内が何とかしてあげたいという気持ちから、インターネットや本、あるいは「いいものがあるわよ」といった口コミなどで情報を得て、それこそ価格が高いからとか、権威のある人が勧めているからとか、CMが目を引くからとか、そうした理由で購入し、患者さんに提供することも多くみられます。
いずれの健康食品にしろ、選ぶときのいちばんのポイントは、科学的な根拠が明らかにされているかどうかです。それを見極めるには、情報の取捨選択ができるように日頃から知識や感覚を磨くことが大切です。つまり情報のリテラシーを養うことが求められているのです。利用者が科学的根拠を重視して選択するようになれば、自ずとメーカーもそこに力を入れるようになり、科学的根拠のない粗悪な製品は市場から淘汰されていくことが期待できます。

寺尾:日本人はブームに弱いのも注意したい点ですね。余談になりますが、私は神戸と東京の会社を行き来しています。新型インフルエンザが最初に話題になったとき、関西では誰もがマスクをしてるような状態でしたが、新幹線で東京に着くと、今度は誰もマスクをしていないという具合で、私としてはマスクを着けたり外したりしながら、この均一性に改めて驚かされたものです(笑)。

大野:マスコミも科学関係の情報をわかりやすく提供する努力をもっとしてほしいと思います。私は、テレビで人気のみのもんたさんが世界的な科学情報誌『Science』や『Nature』から興味深い記事を取り上げてわかりやすく語ってくれるような番組があれば、日本人の科学的知識の底上げに大きく貢献してくれると思うのですが…(笑)。米国には、科学をきちんと理解して一般向けにやさしく話せるジャーナリストを育てるコースがあるということです。

寺尾:メディカルサプリメントアドバイザーの資格者たちにも、これからますます活躍してほしいですね。医薬品を処方するなかで、健康食品をうまく利用できないかを検討するのもひとつの道だと思います。薬の副作用で悩んでいる人とか、アレルギーで薬がまったく飲めない人とか、健康食品の出番が考えられるケースがいろいろあるのではないでしょうか。

大野:健康食品が補完代替医療としてこれだけ注目されている時代です。これからは、医療現場において、医師と患者さんが積極的に健康食品に関してコミュニケーションを取っていく必要があるでしょう。私としては、こうした質問に科学的な根拠ある答えができるように、ヒト臨床試験に大いに力を入れていきたいと思っています。

寺尾:私ども(株)シクロケムとしても、エビデンスを整えて、医師によりいっそう納得してもらえる製品を開発していく必要があると考えています。それだけに今後とも、補完代替医療としての健康食品の重要性を理解してくださっている大野先生にはいろいろご指導いただければと思っております。今後ともよろしくお願いいたします。

終わりに

大野:健康食品を選ぶときの一番のポイントは、科学的根拠が明らかにされているかどうかです。それを見極めるには、情報の取捨選択ができるように日頃から知識や感覚を磨くことが大切です。つまり情報のリテラシーを養うことが求められます。

寺尾:私の専門分野が有機化学合成ということもあり、私ども(株)シクロケムでは、健康食品に関して有効成分の安定性を考慮し分解させることなく体のなかに届ける技術を開発しています。また、法律で効果・効能を表示できないにしても、その有用性についてヒト臨床試験を行ないエビデンスを取るようにしています。

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