マヌカハニー、マヌカハニーファイバー(MAP)
マヌカはニュージーランドに自生する木で、マオリ語で「癒しの木」または「復活の木」を意味します。マヌカは12月頃に開花時期を迎え、この期間にミツバチによって集められ、熟成された花蜜がマヌカハニーとなります。ニュージーランドではマヌカハニーは伝統薬として創傷や風邪症状の緩和のために使用されてきました*1。
マヌカハニーにはメチルグリオキサール(MGO)と呼ばれる特徴的な抗菌物質が含まれるため、他の一般的な蜂蜜よりも高い抗菌活性を有し*2、例えば胃に生息し胃がんの原因とされるピロリ菌の増殖抑制効果*3、口腔内に存在する歯周病およびう蝕原因細菌に対する増殖抑制効果およびこれに伴う口臭抑制効果*4、5、歯垢(プラーク)の減少効果*6、7、肌に塗布することでニキビや創傷や火傷などの治癒を促進する効果*8~10、腸内細菌叢の改善効果*11などが報告されています。
マヌカハニーは高い抗酸化・抗炎症作用を有しており*12、その作用を介してアルコール性胃潰瘍を予防することが報告されています*13。また、ヒトの体にはもともと様々な抗酸化機構が備わっていますが、特に代謝の中枢として酸化ストレスにさらされやすい肝臓は発達した抗酸化機構を有していると言われ、その機構の1つに活性酸素の除去能がある抗酸化酵素があります*14。これに対してマヌカハニーの摂取による肝臓の抗酸化酵素の活性化作用が、また、これと同時に血中の酸化ストレスマーカーの低減効果が報告されています*15。
さらに、運動時に発生する酸化ストレス物質の1つである酸素ラジカルは筋疲労につながると考えられていますが*16、マヌカハニーの摂取は運動による酸化ストレスの上昇を抑制することが報告されています*17。マヌカハニーに含まれる特徴的な成分の1つであるシリング酸メチルは特に強力な酸素ラジカル消去活性を持っています*18。
マヌカハニーの整腸作用に関しては、腸内の悪玉菌を減らして善玉菌を増やすことや腸内環境を酸性条件に整える短鎖脂肪酸を作る作用が報告されています*11、19。腸内で悪玉菌が作る腐敗産物が肌トラブルの原因の1つとされていますので*20、マヌカハニーの整腸作用は肌の健康維持につながることが期待されます。
マヌカハニーをαオリゴ糖で粉末化したマヌカハニーファイバー(MAP)は、抗菌活性*21や抗酸化活性*21、口臭や口腔内細菌数の低減効果*4、整腸作用*21、22、更年期の抗肥満や骨粗しょう症予防*23などを持ち、それらの効果はマヌカハニーそのものよりも高いことが報告されています。
- 病原性細菌に対する抗菌効果*2、3
- 口臭や口腔内細菌数の低減効果*4、5
- 歯垢(プラーク)の減少効果*6、7
- ニキビ、創傷、火傷の治癒促進効果*8~10(塗布による効果)
- 整腸作用*11、19
- 抗酸化効果*12、18
- アルコール性胃潰瘍の予防効果*13
- 血中の酸化ストレスマーカー(マロンジアルデヒド)の低減効果*15
- 肝臓の酸化ストレス低減効果*15(肝臓の抗酸化酵素の活性化作用)
- 運動によって増加する酸化ストレスマーカー(マロンジアルデヒド)の低減効果*17
- 口臭や口腔内細菌数の低減効果*4
- 病原性細菌に対する抗菌効果*21
- 整腸作用*21、22
- 骨粗しょう症予防効果*23
*1:Guido Majno, The Healing Hand: Man and Wound in the Ancient World, Harvard University Press (1975)
*2:Mohammad A. Al-Kafaween et al., Iran. J. Microbiol., 14(2), 238-251 (2022)
*3:N Al Somal et al., J. R. Soc. Med., 87(1), 9-12 (1994)
*4:上野千裕ら, 食品と開発, 56(11), 74-75 (2021)
*5:Diego Romário-Silva et al., Microorganisms, 10, 2325 (2022)
*6:Helen K. P. English et al., J. Int. Acad. Periodontol., 6(2), 63-67 (2004)
*7:Prathibha A. Nayak et al., Contemp. Clin. Dent., 1(4), 214-217 (2010)
*8:J. M. Alvarez-Suarez et al., J. Funct. Foods, 25, 38-49 (2016)
*9:Bouke K.H.L. Boekema et al., Burns, 50(3), 597-610 (2024)
*10:Sunan Wang et al., Food Chemistry, 440, 138060 (2024)
*11:高野美穂, 化学と生物, 55(1), 68-71 (2016)
*12:Evan N. Main et al., MedComm–Biomaterials and Applications, 1(1), e18 (2022)
*13:Saad. B. Almasaudi et al., Oxid. Med. Cell. Longev., 2016, 3643824 (2016)
*14:坪内博仁ら, 肝臓, 56(7), 313-323 (2015)
*15:Zakiah Jubri et al., Clinics, 68(11), 1446-1454 (2013)
*16:Stefania D’Angelo, Sport Science, 13(Suppl 1), 18-22 (2020)
*17:Ramona Jurcău et al., Palestricaof the third millennium-Civilization and Sport, 18(4), 201–205 (2017)
*18:Koichi Inoue et al., J. Sci. Food Agric., 85(5), 872–878 (2005)
*19:Anand Mohan, Effect of Honey on in Vitro Probiotic Efficacy of Lactobacillus ReuteriDPC16, University of Auckland (2020)
*20:Ryoko Iizuka et al., MICROB. ECOL. HEALTH D., 21(3-4), 221-227 (2009)
*21:寺尾啓二, マヌカαオリゴパウダーのちから, 健康ライブ出版社(2016)
*22:Shanthi. G. parkar et al., J. Funct. Foods., 31, 266-273 (2017)
*23:Shinichi Katsumata et al., Int. J. Food Nutr. Sci., 2(2), 86-91 (2015)
マヌカハニーの効果についての研究情報
MAP摂取による口臭の抑制効果
マヌカハニーおよびαオリゴ糖は抗菌作用を有するため、口臭の原因物質をつくる細菌を減らすことが期待できます。
健康な男女7名の口臭に対して、MAPの効果を調べました*4。試験デザインとして、起床してから歯磨きや朝食を控えたときの口臭を測定しました。その後すぐ、マヌカハニーなどのサンプルを3分間口に保持した後に吐き出し、再び口臭を測定しました。各被験者における水摂取前後の変化率を100%としたときの、各サンプルの変化率を相対値として評価しました。その結果、マヌカハニーの摂取により口臭が有意に減少し、MAPでさらに減少しました。また、口腔内の細菌数はマヌカハニーの摂取で減少傾向を示し、MAPの摂取により有意に減少しました。これらの結果から、マヌカハニーおよびMAPは口腔内の細菌を減少または不活性化させることで、口臭を減少させる作用を持つ可能性が示されました。
*4:上野千裕ら, 食品と開発, 56(11), 74-75 (2021)
MAP摂取による更年期の骨粗しょう症対策
更年期においてホルモンの分泌が低下すると、体重増加や体内に蓄積する脂肪量の増加、骨密度の減少による骨粗しょう症などを発症しやすくなります。これらに対するMAP摂取の効果についての検証が行われ、2015年に論文発表されています*23。この試験デザインとして、卵巣を摘出した更年期障害モデルマウスに普通食または10%MAP配合食を与えたグループと、比較として卵巣を摘出していないマウスに通常食を与えたグループを設定しています。その結果、卵巣摘出により体重と体脂肪の明らかな増加が確認されましたが、MAPを摂取した場合でそれらの増加が有意に抑制されました。また、骨粗しょう症の状態は骨代謝マーカーであるCTXを測定しており、卵巣摘出によるCTXの増加がMAPの摂取により有意に抑制されました。これらの結果から、MAPの摂取が更年期障害における抗肥満と骨粗しょう症予防に有用であることが示されました。
*23:Shinichi Katsumata et al., Int. J. Food Nutr. Sci., 2(2), 86-91 (2015)
MAPによる美肌効果
MAPは腸内環境を整える効果があるため、肌トラブルを改善することが期待できます。
腸内環境と肌の状態は密接に関係しています。食生活の乱れなどが原因で悪玉菌が優勢になっている腸内では、便を排泄するための腸のぜん動運動が鈍くなり便秘になりやすくなります。また、悪玉菌によって作り出されるアンモニア、フェノール、硫化水素などの腐敗物質が多くなり、それらが血管を経由して肌に到達し、肌トラブルを引き起こします*20。
MAPは腸内環境を酸性にすることで、悪玉菌を減らし善玉菌を優勢にすることが報告されています*22。この研究では、MAPに対し人工的な消化の処理(胃、十二指腸および小腸)を行い、それを用いて健常者糞便由来の菌を培養させました。その結果、MAPの消化サンプルの場合では特に乳酸量が多く、それに伴いpHが低下し、善玉菌に有意な環境になりました。さらに、この菌液による他の菌への影響を検討したところ、MAPの消化サンプルで培養した糞由来の菌液は、病原性細菌であるチフス菌を減らし、善玉菌である乳酸菌を増やしました。よって、MAPの摂取は腸内環境を改善し、肌トラブルの原因の1つである悪玉菌由来の腐敗産物を減少させ、肌の健康維持に有用であることが示されました。
*22:Shanthi. G. parkar et al., J. Funct. Foods., 31, 266-273 (2017)